2023
07.12

サマータイムで消えてしまった1時間

MotoGP取材紀行

ヨーロッパにはサマータイムというものがあって、3月の最後の日曜日に1時間だけ時計が進む。
1時間が消える、午前2時。
その日はMotoGPポルトガルGPの土曜日について、ぽちぽちと記事を書いていた。
……パソコンのキーボードを叩く音だから「パチパチ」とか「ぽちぽち」になるわけなんだけど、なんかこれ、あんまりがんばってる感がないんだよなあ。「机に向かってがりがりと記事を書いていた」だったら、文豪みたいで格好いい気がしなくもないんだけども。
とにかく、それなりにマジメに仕事していたわけである。

ふとスマホの時計を見ると、腕時計と1時間ずれている。
午前2時のはずが、すでに3時になっていた。
ホテルのオレンジの光に照らされたデスクの前に座ったまま、「どゆこと?」と首をひねる。
1時間、どこにいっちゃったんだ?
そこでやっと思い至った。
あっ、そうか。サマータイムだ。

1時間があとかたもなくどこかへいってしまうのは、なんだか不思議だった。
1時間はどこにいったんだろう。と思い、刻み方が変わっただけで、どこにもいっていないんだなと思いなおす。
仕事に区切りをつけてパソコンの電源を落とす。デスクのライトを消す。ベッドに寝転ぶ。
白いシーツの上のふかふかのまくらに頭を乗せて、スマホの時計を眺める。
デジタルの時計は「今」の正しい時間を生真面目に表示していた。
やっぱり、数えられなかった1時間が気になってしまうのだった。

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このブログはモータースポーツジャーナリスト伊藤英里が、MotoGPなどの海外レース取材のために訪れた先で出会ったいろいろなことを書いていくところです。
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