2024
12.10

「ライダースクラブ」掲載/日本GPペドロ・アコスタインタビュー チャンピオン獲得に必要なものを、ルーキーは熟知する

MotoGP, 各メディア掲載記事

Interview
ペドロ・アコスタ

チャンピオン獲得に必要なものを
ルーキーは熟知する

今季のMotoGPルーキー、ペドロ・アコスタは、
センセーショナルであり、同時に期待されたようなシーズンを送っている。
日本グランプリでインタビューをしていると、
アコスタが回答に必ずといっていいほど言及することがあることに気づいた。
Moto3やMoto2でチャンピオンを獲得してきたアコスタは、知っていたのだ。
タイトル争いに何が必要なのか、を。

日本のレジェンドが評価する
アコスタのブレーキング

 指定された時間よりも少しだけ早くレッドブルのホスピタリティに着くと、ペドロ・アコスタは海外メディアのインタビューを受けているところだった。それを終えると、休む間もなくこちらのインタビューに入る。超大型ルーキーは、母国グランプリではなくても大忙しらしい。

 アコスタとの1対1のインタビューは初めてだった。あらためて向かい合うと、アコスタが囲み取材とは違う空気を纏っているのがわかる。

 もちろん、決してこちらを威圧しているわけではない。20歳という若さが生む心の防壁でもない。しかし、背中をチリチリとした緊張が走る。わずかな問いのほころびすらも許さないような、視線。いや、それは考えすぎかもしれない。アコスタはただそこに座って、質問を待っているだけだったのだから。

 けれどそれが、最高峰クラスのルーキーにして、フランチェスコ・バニャイアやマルク・マルケスと渡り合い、日本GPまでに4度の表彰台を獲得しているライダーの存在感だった。

 その一方で、アコスタは囲み取材などでジョークやユーモアを交えて、度々ジャーナリストたちを笑わせる││最近は苦しいレースが続いていたから、そういう光景も少なくなったけれど。

 アコスタは、「やっぱり二つの顔を持つ必要があると思うんだよ」と言う。

 アコスタには、二人の人間がいる。もちろんどんな人だって、いくつかのキャラクターが複雑に絡み合っているものだ。けれどアコスタの場合、そういう切り替えを意識的にやっているようだった。

「全てをあまりに真剣に捉えすぎてしまうと、ちょっと退屈になってしまうでしょ。だから、仕事をする時は真剣になって集中するべきだし、楽しむ時は思いっきり笑うべきだと思うんだ。そういうバランスが必要だよ。人生において、一日の中で楽しみがないほど深刻なことなんてないと思うよ」

 目の前の20歳のスペイン人ライダーは、あっけらかんとそう言った。走りがそうであるように、ペドロ・アコスタは人間的にも成熟しているように思わせる。

 そんなアコスタのライディングスタイルにおける最大の武器は、ブレーキングだ。本誌でもおなじみの原田哲也さん、青木宣篤さん、そして中野真矢さんというそうそうたる面々が、アコスタのブレーキングを絶賛している。

 実際のところアコスタは、レースでブレーキング巧者のバニャイアやマルケスさえも仕留めているのである。

「日本のレジェンドライダーたちが、あなたのブレーキングは天才的だ、と言っているんですよ」と伝えると、アコスタは「それはうれしいね」と言った。

「Moto2、Moto3の時も自分の強みはブレーキングだったから、そこを少しずつステップアップさせようとしていたんだ。最初はちょっと怖かったよ。エアロダイナミクスなどの影響で、オーバーテイクできるかどうか心配だったからね。でも、ブレーキングに関して大きな進歩を遂げたと思う。今のMotoGPでは、ブレーキングが一番重要な部分のひとつだと思うんだ」

 そしてアコスタは、こうも言った。

「KTMが作ってくれたバイクには本当に感謝しなくちゃ。(ブレーキングは)自分の強みでもあるし、バイク自体の強みでもあるからね」

Moto3時代のアコスタが
マイク前に戻った理由

 いくつかの質問と回答を重ねるにつれ、過去のワンシーンが鮮明に浮かび上がってきた。それはMoto3時代のことだ。あるレースで表彰台を獲得したアコスタは、パルクフェルメのインタビューを終えて立ち去ろうとして、あわててマイクの前に戻ってきた。そして、「ありがとう」と伝えたのである。

 歓喜によるものか、うっかり忘れてしまったのだろう周囲のサポートやファンへの感謝の言葉を言うために、マイクまで戻ってきたのだった。そんなライダーを見たことがなかった。

 このインタビューでも、アコスタは度々、KTMや周囲への感謝を口にしていた。それが何よりも大事なんだ、というように。

「周りにいる人たちに感謝することが大事だと思うんだよね。若い頃はそういうことをあまりわかっていなかったんだけど、年齢を重ねていくと、周りの人たちとのパーソナルな部分が本当に重要だってわかる。

 プロとしてのスキルがどれだけ高くても、人との信頼関係がなければうまくいかないことがある。だから、いつも自分のチームとすごく親密な関係を築こうとしているんだ」

 Moto3で1年、Moto2で2年を走り、各クラスでタイトルを獲得して、最高峰クラスへの階段を凄まじい勢いで駆け上がってきた。しかしアコスタの強さは、速さばかりではないのかもしれない。

「周りの人たちに対して誠実で、明るく接することが大事なんだ。いい日には一緒に祝って楽しむことももちろん大事だけど、悪い日には泣いたりすることだって必要だ。それに、仕事中の僕は決して簡単な人間じゃないってわかってる。だから一緒に乗り越えてくれるような、強い人たちに側にいてほしいんだ。チャンピオンシップは、感情のジェットコースターみたいなものだから」

 アコスタは、レースは一人で戦っているのではないと理解し、周りの人たちの尽力を理解している。チームを大事にする、最高峰クラスで6度のタイトルに輝いてきたマルク・マルケスのように。

 アコスタはチャンピオンになるだろう。それは走りの強さ、速さだけが理由ではない。彼の本当の強さは、「チャンピオンになるために必要なこと」を知っているということだ。

ペドロ・アコスタ
2004年5月25日生まれ。スペイン人。2020年、レッドブルMotoGPルーキーズカップでチャンピオンを獲得。2021年から世界選手権Moto3に参戦を開始し、初年度でチャンピオンを獲得した。2023年、Moto2参戦2年目でチャンピオンに輝くと、今季から最高峰クラスに昇格。決勝で2位を2回、3位を2回獲得している。

トップ画像©RIDERS CLUB
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ライダースクラブNo608(2024年12月号/2024年10月27日発売)に掲載された、MotoGP第16戦日本GPで取材したペドロ・アコスタ選手のインタビュー記事を、ウェブ掲載にあたり再編集したものです。
ライダースクラブの記事では、真弓悟史フォトグラファーの素晴らしい写真とともに、記事をお楽しみいただけます。
ぜひ、よろしくお願いいたします。
https://www.fujisan.co.jp/product/2727/b/2582679/