2024
12.09

「ライダースクラブ」掲載/日本GPフランチェスコ・バニャイアインタビュー学び続ける2冠王者。「ロッシを超えたいか?」に対する答えは——

MotoGP, 各メディア掲載記事

Interview
フランチェスコ・バニャイア

学び続ける2冠王者
「ロッシを超えたいか?」に対する答えは——

すでにMotoGPクラスで2度のチャンピオンに輝いているバニャイアに、
「ロッシを超えたいか」と尋ねた。
バニャイアは肯定しなかった。しかし同時に、否定もしなかった。
バニャイアは、この先も勝ち続けることが今の自分の目標だと言う。
学び続けるバニャイアは、最も険しい道を歩いているように見える。
けれどそれが、バニャイアの強さなのかもしれない。

どんな困難やミスからも
学ぶことはある

 ドゥカティのホスピタリティで待っていると、フランチェスコ・バニャイアが「待たせてごめん、ちょっと(ホスピのキッチンで)料理をしていたんだ」と言ってやってきた。

 インタビューの最初に「とても基本的な質問になるのですが」と前置きすれば、バニャイアは端正な顔に微笑を浮かべて、「大丈夫だよ」と穏やかに答える。チャンピオンとしての振る舞いのお手本のように、礼儀正しくて笑顔を忘れない。そんなバニャイアに、キャリア初期の話を聞いた。

 バニャイアがバイクに乗った最初の日は、5歳のクリスマスだった。クリスマスツリーの下に、ベータの50㏄ミニクロスバイクが置かれていて、祖父母の家の庭でぐるぐると走らせたという。バニャイアは、その日のことを鮮明に覚えていた。

 お父さんやおじさんも、いわゆるバイク好きのライダーだ。ただ、お父さんがバニャイアに走りを教え込むことはなかったという。

「父はただ楽しんでバイクに乗っていたんだよね。僕が実際にバイクに乗り始めた時も、何も言わなかったんだ。父が言ったのは、『バイクに乗ると決めたのなら、100%でやらなきゃいけないよ。100%が出せないなら、やめよう。でもね、楽しむことが一番大事なんだよ』ということ。僕が自分で理解するのを見守ってくれた。無理強いされたことは一度もなかったよ」

 己の内側から湧き出る情熱とともに、バニャイアは世界選手権に駆け上がった。最大の転機は、2015年だ。モト3参戦3年目に有力チームであるアスパー・チームに移籍した。バニャイアは「最初の2シーズンは、無駄にしたような感じだった」という。その2シーズンのような難しい状況においてこれまで、バニャイアはどう向き合ってきたのか。

「僕は自分自身と向き合って、全ての困難な瞬間や悪い状況からも学ぶことが得意だったと思う。どんなミスや失敗からも、いつも何かを学んで成長してきたんだよね。だから、負けても転倒しても、悪い形では捉えないようにしてる。常に学んで、自分を改善するチャンスだと思っているんだ」

ロッシの数字を超えることは
最高の仕事をしたということ

 バニャイアはすでに2度の最高峰クラスのタイトルを獲得している。そして今季もそれを争っている。将来の目標は何だろうか。

「勝ち続けたい」と、バニャイアは言う。

「もっと勝ち続けたいし、もっと学び続けたいと思っている。今のところ明確な目標はないけど、ただ今やっていることを続けて、それを〝楽しみながら〞できるだけ多く勝つことを目指しているんだ」

「明確な目標はない」と言うバニャイアに、「バレンティーノ・ロッシの勝利数やタイトルを超えたいと思いますか?」と質問した。バニャイアは、ロッシが設立したVR46ライダーズアカデミーの一員だ。

「あと6回ものタイトルだから、まだ道のりは長いよね。僕の野心は勝ち続けて、できるだけ多くのタイトルを取ることだ。でも、バレンティーノのタイトル獲得数を超えるということは、最高の仕事をした、ということになる」

 否定も肯定もしない、練られた回答だった。だが、否定はしなかったところに本心が潜んでいた気がして、さらに「ライディング面で、あなたとロッシを比べたとき、あなたが勝っているところは?」と重ねる。

「バレンティーノはブレーキングがすごく上手だったと思うし、僕もブレーキングが得意だ。でも、彼が特に優れていたのはバトルの強さだよ。僕はまだそこが彼ほど上手くないから、もっと学びたいと思っていて、彼の過去のレースをたくさん見ているんだ。あと、バレンティーノの一番の強みは『頭脳』だと思う。相手に後れをとっている時でも、彼はメンタル面で本当に、本当に強くて、それで勝っていた。僕もメンタル面ではすごく強いと自分では思っているけどね」

 バニャイアにとって、ロッシは師である。しかし、師は目指す目標であり、超えるべき存在でもある。バニャイアはロッシの話をするとき、慎重だった。けれどその答えには、隠しきれないバニャイアの本音が紛れ込んでいた。バニャイアはおそらく、ロッシを超えたいのだろう。そう思わせる、本音が。「いつか鈴鹿8耐に参戦して、勝つことが僕の野望なんだ」と言う。それも、ロッシを超えたいという願望からくるものなのだろうか……。これについては、想像の域を出ないけれど。

 日本が大好きだというバニャイアに、どこが好きなのかと尋ねると、「きれいだし、みんな本当に礼儀正しい。それに、落ち着きを感じるのがすごく好きなんだ」と答えた。

「昨日、センソウジでセレモニー(安全祈願)に参加したけど、本当に面白かった!こうやって自分の文化とは違うものを学んで理解することがすごく好きなんだよね」

 バニャイアはいつも学び続けている。そして、その向上心はレース以外にも向いているのだ。

「そう習ったわけでも、そうなりたいと意識したわけでもない。自然とそういう風に考えるんだ。僕はこういう人間なんだね。頭の中ではずっとこういう風に考えてきた。いつも何か新しいこと、違うことを学びたいと思っているし、死ぬ日まで学ぶことは終わらないと思うんだ。だから、学びはずっと続くものだと思うし、そういう風に生きるのはすごくいいことだと思ってるよ」

 そう言ってバニャイアは、またにっこりと笑った。それはチャンピオン・ライダーとしてのそれであり、フランチェスコ・バニャイアという人間が持つ笑顔だった気がする。

フランチェスコ・バニャイア
1997年1月14日生まれ。Moto3に参戦していた2014年、バレンティーノ・ロッシが主宰するVR46ライダーズアカデミーの一員となる。2018年、Moto2チャンピオンを獲得。2019年に最高峰クラスデビューを果たす。2021年、ドゥカティのファクトリーチームに抜擢。2022年にチャンピオンに輝き、2023年には2連覇を達成した。

トップ画像©RIDERSCLUB
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ライダースクラブNo608(2024年12月号/2024年10月27日発売)に掲載された、MotoGP第16戦日本GPで取材したフランチェスコ・バニャイア選手のインタビュー記事を、ウェブ掲載にあたり再編集したものです。
ライダースクラブの記事では、真弓悟史フォトグラファーの素晴らしい写真とともに、記事をお楽しみいただけます。
ぜひ、よろしくお願いいたします。
https://www.fujisan.co.jp/product/2727/b/2582679/